こんにちは、ウィメンズヘルスアーティストの白井てりです。
わたしの作品たちは「レース陶芸」という手法を用いて制作しています。
「レース陶芸」は造語で、
18世紀後半ドイツのドレスデン地方発祥で、王侯貴族への献上品として発展した伝統的陶芸「レースドール」の技法をベースとしています。
一見するとふんわりしたドレープや柔らかさが布そのものですが、触れると硬く、けれど脆い磁器。
みなさんギャップに驚かれます。
そして、必ず聞かれるのが「どうやって作っているの?」。
作品をご覧いただいた方に切々とお話するのですが、
なかなか言葉だけでは伝わりにくい6つの制作工程を今日はじっくりお伝えしますね。
- レースを選ぶ
- 糸を通す
- 液体状の磁土に浸す
- 半乾燥
- 造形
- 焼成
売場にありそうだけど、見たことのないデザインを考える
もちろん、一作品ごとに色、装飾、全体の雰囲気を考えます。
学生時代からRavage,Aubade,Andres Sara,Chantal Thomass…
ヨーロッパのランジェリーが好きだったこと、世界随一のレース生地会社に勤務する中で
尋常ならぬほどの数のランジェリーを見てきました。
私だったらどんなデザイン?
そんなことを考えるのがおこがましいほどクリエイティブの裏側も見てきたから
こういうものを作ろう!私の好きなデサイン…というよりは
あの日あのとき売場やメーカーさんで見かけた、記憶の片隅に浮かぶものをつなぎ合わせているのかもしれません。
いちばんのキモ!編み目まで美しいレースを選ぶ
実際のランジェリー作りと異なるのは、
手のひらに乗るようなサイズに仕上げるために、使えるレース生地の幅が限られるということ。
この幅は、「実際の長さ」「柄の種類」の2つの意味があります。
「実際の長さ」は、レース特有のふんわりしたギャザーを足ぐりに使うとき、乳房を造形するときに、1〜2センチ程度という細幅であること。
3センチほどになりますと、ランジェリーのデザインを損ねますし、乳房は大きすぎて立体額におさまりません。
「柄の種類」は、どんなに美しい花柄でも大ぶりな柄レピート(模様の繰り返し)だと作品にするには大きすぎてしまいます。
というようなポイントはありますが、
いちばん大事なのは、とにかく薄く繊細な編み目のものを選ぶということ。
そのぶん造形や焼成の難易度は上がりますが、触れるだけで崩れてしまうような繊細さが実現できるのです。
まるで縫い物の準備!!レースに糸を通します
制作工程で手を動かす最初の作業はレースに糸を通すことから始まります。
ふんわりとした生地の質感やギャザーなどの装飾を付けたい箇所のおおよそ3倍の長さのレースをカットし、
デザインを頭に描きながらレースの縁に糸を通していきます。
液状の磁土にレースを浸し、土を定着させる
口頭でいちばんご説明が難しいなぁと感じる工程。
「レース陶芸」と言うと、ろくろを回しているイメージなのでしょうか…
文字通り、液体の土にレースを浸し、絞り、繊維のすみずみに土を染み込ませます。
使用するレースの素材(綿ベース、ナイロンベースなど)半乾きになってきたら同じことを複数繰り返し…
ここでうまく土がつかなければ焼成後に破裂したり、縮に耐えきれずに破れてしまいます。
とにかく慎重に、美しい仕上がりを目指して
何度も薄く土を重ねて、レースをコーティングしていきます。
ふんわりとしたドレープやギャザーを造形する
土を纏い、ずっしりと重くなったレースの端々から出ている糸を引っ張り
立体的な生地感を作っていきます。
レースの柄をしっかり見せたければ絞りは控えめに、
ふんわり感を見せたければぎゅぎゅっと強めに絞ったり…
このとき使う道具は先端がかぎ爪型や尖った金属。
ちょっと特別な「粘土ヘラ」というイメージでしょうか…?!
1200℃で20時間の焼成後、はじめて色が明らかに
1,200℃はかなりの高温。
窯の温度が上がる・下がるを入れますと非常に時間がかかります。
そして、ここまでの工程、実は色が一切わかりません。
頭の中デザインしたものを実現するため、調色された液状磁土を用いていますがよほど濃い色を除けば全て灰色の土で見分けがつきません。
例えば白でもクリアなホワイトか少しくすんだり黄みがかったホワイトか…
熟考に熟考を重ねても、レースの厚みや素材によって色が思い通りに出ないことも多々あります。
形が美しく仕上がるか、ということも頭を離れませんが
それ以上に色の出方が最後の最後までわからない、「レース陶芸」は実にユニークでミステリアスな手法だと思いませんか?